江戸時代のベストセラー算術書『塵劫記(じんこうき)』には、日常生活や職人の現場で役立つ実用的な知恵がたくさん紹介されています。今回は、江戸の大工さんや材木屋さんが使っていた、「丸太から最も太い正方形の柱を切り出す図形パズル」をご紹介します。
【問題】丸太から切り出せる一番太い柱の大きさは?
ここに、切り倒したばかりの丸い丸太があります。
この丸太を削って、断面が正方形の角柱(四角い柱)を切り出したいと考えています。
できるだけ木を無駄にせず、最も太い(断面積が大きい)正方形の柱を作るとき、その正方形の1辺の長さは丸太の直径とどのような関係になるでしょうか?
【問題:丸太から最大の正方形を切り出す】
丸太の中にぴったり収まる最大の正方形とは?
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【解説:対角線で見る江戸の図形トリック】+
【解説:対角線が直径と一致する】
正方形の4つの角が円周に接し、対角線が円の直径になります
ステップ1:面積を計算してみる
円の中に4つの角がピッタリつくように正方形を描くと、正方形の対角線は丸太の「直径」になります。
正方形は「ひし形」の一種でもあるため、ひし形の面積の公式(対角線 × 対角線 ÷ 2)を使うと、柱の断面積が一瞬で分かります。
- 丸太の直径を 10 cm とすると、
- 正方形の面積 = 10 × 10 ÷ 2 = 50 平方cm
【なぜ「対角線 × 対角線 ÷ 2」で求まるの?】
正方形は4つの辺の長さがすべて等しいため、「ひし形」の仲間でもあります。 ひし形の面積を求める公式「対角線 × 対角線 ÷ 2」が成り立つ理由は、図形を囲む「外側の正方形」をイメージすると一瞬で分かります。
【図解:外側の四角形のちょうど半分!】
外側の四角形(対角線×対角線)の中に、4つの直角三角形が半分ずつ入っています
- 正方形の4つの角を通るように、外側にピッタリ囲む四角形を描きます。
- この外側の四角形は、縦も横も「中の正方形の対角線」と同じ長さになります(面積は 対角線 × 対角線)。
- 中の正方形は、外側の四角形のちょうど半分の面積(÷ 2)になります。
そのため、1辺の長さが分からなくても「対角線 × 対角線 ÷ 2」だけで正方形の面積が正確に計算できます。
ステップ2:1辺の長さを求める(江戸の大工言葉「7割」)
面積が50平方cmになる正方形の1辺の長さは、およそ「7.07 cm」になります。
江戸時代の職人たちは、難しい計算をしなくても現場でパッと判断できるように、感覚的な合い言葉として共有していました。
「丸太の直径に 0.7(7割)を掛ければ、取れる角柱の太さになる」
例えば、直径 30 cm の丸太があれば、 30 × 0.7 = 21 cm 「約21 cmの太い四角い柱が取れる!」と現場で即座に計算していたのです。
ステップ3:1辺の長さを求める(なぜ「0.7掛け」で求まるの?)を考える。
ステップ1で、「直径10cmの丸太から取れる正方形の面積は 50平方cm」だと分かりました。
では、「面積が50になる正方形の1辺の長さ」はいくつでしょうか? 正方形の面積は「1辺 × 1辺」なので、「同じ数を2回掛けて50に近くなる数」を探してみます。
- 6 × 6 = 36(小さすぎる)
- 8 × 8 = 64(大きすぎる)
- 7 × 7 = 49(ほぼピッタリ50!)
なんと、「7」を2回掛けると「49」になり、50に極めて近いことが分かります。 (細かく計算すると 7.07 × 7.07 ≒ 50 になります)
つまり、「直径10cmの丸太」からは「1辺が約7cmの柱」が取れるということです。
ここから、江戸時代の大工さんたちは次のような実用的な知恵を編み出しました。
「10cmに対して7cmなら、どんな丸太でも『直径 × 0.7(7割)』を掛ければ柱の太さになる!」
- 直径 20 cm の丸太なら ➔ 20 × 0.7 = 14 cm の柱
- 直径 30 cm の丸太なら ➔ 30 × 0.7 = 21 cm の柱
「7 × 7 = 49」という九九のひらめきが、木材を無駄なく切り出すための強力な現場の公式になっていたのです。
数学と歴史のつながり
現代の数学(直角二等辺三角形の比率「1:1:ルート2」)で正確に計算すると、正方形の1辺は「直径 ÷ 1.414 = 直径 × 約0.7071」となります。
江戸時代の人々は難しい記号を使わなくても、「円の直径に対角線を合わせる」という図形のひらめきと、「約7割」という生活の知恵によって、木を無駄にしない見事なものづくりを行っていました。

